インコタームズは、
この記事でわかること
- インコタームズ2020の11規則で、費用と危険がどこで移るか
- 初めての相手・小口・船便・航空便で選びやすい貿易条件
- 見積もりと契約に書く項目と、見積もりの前に買い手に聞く質問
インコタームズ(貿易条件)とは:費用と危険の分かれ目を3文字で示すルール
貿易条件とは、海外との売買で、運送・保険・通関の手配と費用をどこまで売り手が持ち、荷物の危険がどこで買い手に移るかを決める条件です。ここでいう危険は、運ぶ途中で荷物がなくなったり壊れたりしたときに、その損を負うことです。
貿易条件の共通のルールが、国際商業会議所(ICC)が定める「インコタームズ」です。FOBやCIFのような3文字の規則で、売り手と買い手の受け持ちを示します。今の版は2020年1月1日に発効した「インコタームズ2020」で、11の規則があります(2026年10月時点。ICCの公式ページで確認)。
インコタームズが決めるのは、引き渡しの場所と危険が移る時点、運送・保険・通関の手配と費用の分け方です。代金の額、支払い方法、所有権がいつ移るか、契約に反したときの扱いは決めないので、見積もりや契約書に別に書きます。法律ではないため、使うときは「Incoterms® 2020」と版まで書いて取り入れます。
海外営業の仕事全体は「海外営業とは?仕事内容・国内営業との違い」、初めて輸出するときの流れと書類・決済は「海外輸出の始め方」で解説しています。この記事では、見積もりで貿易条件を決めるところに絞ります。
頭の文字で4つに分かれる
11の規則は、頭の文字で4つに分けると覚えやすくなります。E→F→C→Dの順に、売り手の受け持ちが増えます。
- E(EXW): 自社の工場や倉庫で、買い手に渡す
- F(FCA・FAS・FOB): 日本で、買い手が手配した運送人や船に渡す。海外までの運賃は買い手が払う
- C(CPT・CIP・CFR・CIF): 海外までの運賃は売り手が払うが、危険は日本で渡した時点で買い手に移る
- D(DAP・DPU・DDP): 相手国の指定の場所まで、売り手が運び、危険も持つ
もう1つの分け方が輸送の手段です。FAS・FOB・CFR・CIFの4つは船(海と内陸の水路)の輸送だけに使い、ほかの7つはどの輸送手段にも使えます。
- EEXW自社の
工場や 倉庫で、 買い手に 渡す - FFCAFASFOB日本で、
買い手が 手配した 運送人や 船に 渡す。 海外までの 運賃は 買い手 - CCPTCIPCFRCIF海外までの
運賃は 売り手。 危険は 日本で 渡した 時点で 買い手に 移る - DDAPDPUDDP相手国の
指定の 場所まで、 売り手が 運び、 危険も 持つ
11規則の違い:費用と危険がどこで移るか
日本から輸出する場合で、11の規則を並べます。
| 規則 | 危険が買い手に移るところ | 売り手が払う運送・保険 | 使える輸送 |
|---|---|---|---|
| EXW(工場渡し) | 自社の工場・倉庫で、買い手が引き取れるようにしたとき(積み込みは買い手) | なし | すべて |
| FCA(運送人渡し) | 指定の場所で、買い手が手配した運送人に渡したとき(自社の構内なら積み込んだとき) | 指定の場所まで | すべて |
| CPT(輸送費込み) | 日本で、売り手が手配した最初の運送人に渡したとき | 相手国の指定の場所まで | すべて |
| CIP(輸送費保険料込み) | CPTと同じ | 相手国の指定の場所まで+保険(広い補償) | すべて |
| DAP(仕向地持込渡し) | 相手国の指定の場所に着き、荷卸しできる状態にしたとき | 指定の場所まで(荷卸しは買い手) | すべて |
| DPU(荷卸込持込渡し) | 相手国の指定の場所で荷卸ししたとき | 指定の場所まで+荷卸し | すべて |
| DDP(関税込持込渡し) | DAPと同じ | 指定の場所まで+輸入の通関と関税・輸入の税 | すべて |
| FAS(船側渡し) | 日本の積み港で、本船の横に置いたとき | 本船の横まで | 船だけ |
| FOB(本船渡し) | 日本の積み港で、本船に積んだとき | 本船に積むまで | 船だけ |
| CFR(運賃込み) | FOBと同じ | 相手国の港まで | 船だけ |
| CIF(運賃保険料込み) | FOBと同じ | 相手国の港まで+保険(最低限の補償) | 船だけ |
輸出の通関は、EXWだけが買い手、ほかの10の規則は売り手の受け持ちです。輸入の通関と関税を売り手が持つのはDDPだけで、ほかの10の規則は買い手が持ちます。
Cの規則は「運賃は相手国まで、危険は日本で」
CPT・CIP・CFR・CIFでは、売り手が相手国までの運賃を払いますが、危険は日本で荷物を渡した時点で買い手に移ります。運ぶ途中で荷物が傷んだら、買い手が保険で補います。売り手の約束は「日本で出荷すること」なので、納期は出荷の日で書きます。
CIFとCIPでは、売り手が保険をかけます。2020年版では、CIFは最低限の補償(協会貨物約款のC条件など)、CIPは広い補償(A条件など)が求められ、保険金額は契約の価格の110%以上です。CIFで広い補償を求められたら、契約で決めます。
EXWとDDPは、受け持ちの両端ならではの注意がある
EXWは売り手の手間がいちばん少なく見えますが、日本での積み込みと輸出の通関を買い手が受け持ちます。海外の買い手が日本で輸出の手続きをするのは難しく、税や会計の扱いが複雑になることもあります。ICCは、自社の構内で渡したいときにも使える条件としてFCAを挙げています(ICC Academyの解説(英語))。
DDPは、相手国での輸入の通関と、関税・輸入の税(付加価値税など)まで売り手が持ちます。国によっては外国の会社が輸入の手続きをできず、関税が上がれば売り手の負担が増えます。ICCは関税の変更に備える案内で、売り手の負担を避けるにはDDPでなくDAPを使う例を挙げています(ICCの案内(英語・PDF))。
場面ごとの選び方:初めての相手・小口・船便・航空便
売る側から見た、選びやすい条件の目安です。
- コンテナの
船便 初めての相手 FCA受け持ちが日本の フォワーダーの倉庫や港のコンテナ置き場で渡す買い手のフォワーダーと受け渡しの場所を聞く中で 終わる - 買い
手から 運賃込みの価格を 求められた CPT・CIPバラ積みの船なら 運賃と保険料をフォワーダーに聞く有効期限を日付で書くCFR・CIF - 「FOB Narita」のような
引き合いも 航空便FCA・CPT・CIPFOB・CIFは使えない FCAは空港やフォワーダーの倉庫で渡す運賃込みならCPT・CIP - 国際宅配便サンプル・小口DAP関税・輸入の
税は 送り主が税を払う形は、DDPに当たる送り主が払うなら、税の額を運送会社に確かめて価格に入れる受け取る 側 - DDPを
求められた 届け先までときも 任せたい 相手 DAPDDPは確かめてから DDPは、輸入の手続きを頼めるか、税の額を確かめてから輸入の通関と関税は買い手にお願いする
| 場面 | 選びやすい条件 | 見積もりで気をつけること |
|---|---|---|
| 初めての相手(コンテナの船便) | FCA(フォワーダーの倉庫や港のコンテナ置き場で渡す) | 買い手のフォワーダーと受け渡しの場所を聞く |
| 運賃込みの価格を求められた | CPT・CIP(バラ積みの船ならCFR・CIF) | 運賃と保険料をフォワーダーに聞き、有効期限を日付で書く |
| 航空便 | FCA(空港やフォワーダーの倉庫で渡す)、CPT・CIP | FOB・CIFは使えない |
| サンプル・小口(国際宅配便) | DAP(関税・輸入の税は受け取る側) | 送り主が税を払うなら、額を確かめて価格に入れる |
| 届け先まで任せたい相手 | DAP | DDPは、輸入の手続きを頼めるか、税の額を確かめてから |
初めての相手:受け持ちが日本の中で終わるFCAから
初めての相手には、受け持ちが日本の中で終わるFCAから考えます。海外の運賃の変動や相手国での手続きを抱えずに済み、見積もりも早く出せます。受け渡しの場所は、買い手が使うフォワーダー(国際輸送の手配をする業者)の倉庫や、港のコンテナ置き場を指定します。
FOBもよく使われますが、コンテナの荷物は、船に積む前に港のコンテナ置き場で渡すのが普通です。FOBでは船に積むまで売り手が危険を持つので、置き場で待つ間の危険も売り手に残ります。ICCはコンテナの荷物にはFCAを勧めており、FOBはコンテナに入れずに船に積む機械や原料などに向きます。
信用状(L/C。買い手の銀行が支払いを約束する仕組み)では、船に積んだことを示す船荷証券を求められることがあります。2020年版のFCAでは、買い手が運送人に指示して、その船荷証券を売り手に出させる取り決めができます。
買い手がフォワーダーを持っていない、または運賃込みの価格を求めるときは、CPT・CIP(バラ積みの船ならCFR・CIF)で見積もります。
小口・サンプル:国際宅配便ではDAPかDDP
サンプルや少量の部品を国際宅配便で送るときは、届け先までの運賃を送り主が払い、関税と輸入の税を受け取る側が払う形(DAPに当たる)か、送り主が払う形(DDPに当たる)を、発送の手配のときに選びます。送り主が払うなら、税の額を運送会社に確かめてから価格に入れます。船便の小口(ほかの荷物と混ぜてコンテナに詰める形)は、フォワーダーの倉庫で渡すFCAが使えます。
航空便:FOB・CIFは使えない
FAS・FOB・CFR・CIFは船だけの規則なので、航空便にはFCA(空港やフォワーダーの倉庫で渡す)、運賃込みならCPT・CIPを使います。「FOB Narita」のような引き合いが来たら、FCAに置き換えて、受け渡しの場所を確かめてから答えます。
見積もりの組み立て:工場渡しの価格に、受け持つ費用を足す
輸出の見積もりは、工場から出すときの価格(EXWの価格)を土台に、選んだ条件で売り手が受け持つ費用を足して作ります。
| 条件 | EXWの価格に足す主な費用 | 金額を聞く相手 |
|---|---|---|
| FCA | 輸出の梱包、指定の場所までの運送、輸出の通関 | 運送会社、通関業者、フォワーダー |
| FOB | FCAの費用+積み港での費用と本船への積み込み | フォワーダー |
| CFR・CPT | +相手国の港・指定の場所までの運賃 | フォワーダー |
| CIF・CIP | +保険料 | フォワーダー、保険会社 |
| DAP | +相手国の港から届け先までの運送(荷卸しは除く) | フォワーダー |
| DDP | +輸入の通関、関税、輸入の税 | フォワーダー、相手国の通関業者 |
港や空港での費用のうち、どれが運賃に含まれるかは、運送の契約によって変わります。相手国の港での費用も含めて、フォワーダーの見積もりで項目を確かめます。運賃は変わるので、運賃込みの条件(C・D)では、見積もりの有効期限を日付で書きます。外貨で出すときは、使った為替レートも添えます。
見積もりと契約に書く項目
- 1見積もりと
契約に 規則の3文字と、指定の場所(港・空港・倉庫の住所)版:Incoterms® 2020輸送の手段と、納期は出荷の日か到着の日か通貨・単価・数量と、有効期限(日付で)保険:CIF・CIPなら、C条件かA条件か支払条件と、所有権がいつ移るか✕書く 「FOB Japan」 ✕ 航空便に:どの 港か 分からない FOB・CIF - 2見積もりの
前に 届け先:国・都市・港、倉庫の住所輸送の手段と時期:船か航空便か、いつまでに日本のフォワーダー:買い手の側で手配するかいつも使う貿易条件:社内の決まりがあるか輸入の手続き:誰が通関をし、関税を払うか保険と書類:保険の範囲と、要る書類買い手に 聞く
見積もりと契約には、次の項目を書きます。英語の見積書の項目全体とひな形は「英語の見積書(Quotation)の書き方」で解説しています。
- 規則の3文字と、指定の場所: 港・空港・倉庫の住所まで、できるだけ具体的に書きます。「FOB Japan」では、どの港かが分かりません。
- 版: 「Incoterms® 2020」と書きます。
- 輸送の手段と、出荷か到着か: E・F・Cの規則は日本で引き渡しが終わるので、納期は出荷の日で書きます。Dの規則は到着の日です。
- 通貨・単価・数量・最低の注文数・梱包
- 有効期限: 運賃や為替の変動に合わせて、日付で書きます。
- 保険: CIF・CIPなら補償の範囲(C条件かA条件か)と保険金額。F・Cの規則(CIF・CIPを除く)で保険をかけるのは買い手です。
- 支払条件と所有権: インコタームズは決めないので、支払い方法と時期、所有権がいつ移るかを書きます。
- 関税や運賃が大きく変わったときの扱い: DDPや長く続く取引では、価格を見直すかを決めておきます。
書き方の例です。
- FCA Osaka, Japan (forwarder’s warehouse, [address]), Incoterms® 2020
- CIF Hamburg, Germany, Incoterms® 2020
続けて取引する代理店・販売店とは、標準の貿易条件を販売店契約に書いておくと、注文のたびに迷いません。契約で決める項目は「海外代理店契約の基本」で解説しています。インボイス(仕入書)にも、見積もりと同じ貿易条件を書きます。
見積もりの前に買い手に聞く質問
貿易条件は、買い手の事情が分からないと決められません。引き合いが来たら、メッセージや面談で、見積もりの前に次のことを聞きます。
- 届け先: 国・都市・港、倉庫の住所
- 輸送の手段と時期: 船か航空便か、いつまでに欲しいか
- 日本のフォワーダー: 買い手の側で運送を手配するか
- いつも使う貿易条件: 社内の決まりがあるか
- 輸入の手続き: 誰が輸入の通関をし、関税を払うか
- 保険と書類: 保険の範囲、原産地証明書など要る書類
英語で聞くときは、1通にまとめて送れます。
- Thank you for your inquiry. To prepare our quotation, could you share the delivery address, your preferred shipping method (sea or air), and the Incoterms you usually use? If you have a forwarder in Japan, we can quote FCA at their warehouse.
LinkedInは、200以上の国と地域で14億人以上が登録する仕事のためのSNSです(About LinkedIn)。LinkedInで知り合った相手なら、プロフィールの職歴から、相手が購買・物流・輸入の担当かの見当もつきます。場面ごとの英文は「LinkedInの英語メッセージ例文集」にまとめています。
買い手がDDPやCIFを求めてきたら
買い手の希望が、売り手に合わない条件のこともあります。断るだけでなく、代わりの条件を出すと話が進みます。
- DDPを求められた: 相手国で輸入の手続きを頼めないなら、届け先までのDAPで出し、輸入の通関と関税は買い手にお願いします。We can quote DAP to your warehouse. Import clearance and duties would be handled on your side.
- 航空便でCIFを求められた: 同じ受け持ちのCIPで出します。
- コンテナの船便でFOBを求められた: FOBのままでも出せます。危険の分かれ目を早めたいなら、FCAを提案します。
条件の話を避ける、後払いだけを強く求めるといった答え方は、本気の買い手かを見分ける手がかりにもなります。見分け方は「海外バイヤーの見つけ方・探し方」で解説しています。
よくある失敗
- 場所を書かない: 「FOB Japan」のように港が分からないと、運送の費用が食い違います。
- 航空便やコンテナに、FOB・CIFをそのまま使う: 実際の受け渡しと危険の分かれ目がずれます。
- 版を書かない: 2010年版と2020年版では、CIPの保険の範囲などが違います。
- CIFで到着日を約束する: Cの規則で売り手が約束するのは日本での出荷です。到着日まで約束するなら、契約に別に書きます。
- 関税と輸入の税を調べずにDDPで出す: 受注しても利益が残らなかったり、輸入の手続きができなかったりします。
まとめ
- インコタームズは、費用と危険がどこで売り手から買い手に移るかを3文字で示すルールで、今の版は2020年版(11規則)
- E→F→C→Dの順に売り手の受け持ちが増え、Cの規則は運賃を相手国まで払っても危険は日本で移る
- 初めての相手にはFCAから考え、運賃込みならCPT・CIP、航空便にFOB・CIFは使わない。EXWとDDPは慎重に
- 見積もりは、EXWの価格に受け持つ費用を足し、規則・指定の場所・版・通貨・有効期限・支払条件をそろえて出す
- 見積もりの前に、届け先・輸送の手段・フォワーダー・いつもの条件・輸入の手続きを買い手に聞く
COSPALinksは、LinkedInを使った海外営業を支援しています。見積もりの相手になる海外の買い手や代理店の候補を、狙う国と相手から探して会う進め方を、資料ライブラリにまとめています。
よくある質問
AFOBは、日本の積み港で本船に積むまでの費用を売り手が持ちます。CIFは、それに加えて相手国の港までの運賃と保険料も売り手が払います。危険が買い手に移るのは、どちらも日本で本船に積んだときです。どちらも船だけの規則で、航空便にはFCAやCIPを使います。
Aインコタームズは法律ではなく、契約で取り入れて使うルールなので、どの版に従うかは契約で決めます。新しく見積もるなら2020年版で書くのが分かりやすく、相手が2010年版を指定してきたら、版で違う点(DATがDPUに変わった、CIPの保険の範囲など)を確かめます。
A違います。貿易条件は、運送・保険・通関の受け持ちと、危険が移る場所を決めます。支払条件は、代金をいつ、どの方法で受け取るかを決めます。見積もりには両方を書き、初めての相手とは前払いの割合を増やすなどして回収の危険を小さくします。
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